いまだに根強いストレッチ信仰、実は害になることも!?

先日、「王道ジャンプマンガには、日本人から自主性を失わせてるという効果があるのでは?」という仮説を考えていたときに、『キャプテン』という古いマンガが思い浮かびました。『あしたのジョー』で有名なちばてつやの弟、ちばあきおの傑作シリーズで、続編もあるくらいの長編野球マンガです。天賦の才能とか数奇な運命とか驚異的な身体能力とかを持たなくても地味な努力をして開花するグループの例として思い浮かんだのではありますが、でも「(効果がない上にヒザを壊すことで有名になった)うさぎ跳びとかしてた時代」でのマンガでもあるわけです。

『巨人の星』の方がいまでも有名かと思うのですが、あちらでは全身バネだらけの「大リーガー養成ギプス」という謎の器具で身体を鍛えるという強烈なトレーニングが出てきます。それが40年前。いかに人間の知っている身体についての知識は発展途上か、というとてもわかりやすい例ではありますが、ダンスにかかわるトレーニングでも重大な誤解が広まっていました。それがストレッチ。

「運動前に静的ストレッチをしても良い効果はない」という話は比較的有名にはなってきましたが、ダンスレッスンなどを見て回るとやっぱりまず静的ストレッチをしている講師が多いように見受けられます。

昔はストレッチをすると

  1. けがをしにくい
  2. パフォーマンスをあげる
  3. 筋肉痛を和らげる
  4. 関節の稼動範囲を拡げる

などと言われていましたが、実際に統計をとってみると1と2については逆の結果が出たのです。静的ストレッチと、そこに収縮する動きも組み合わせたPNFストレッチ、ともに運動前に行うとケガの確率を増やし、パフォーマンスを下げます。

参考:複数の調査をまとめて各種ストレッチの効果を検証した調査

この話、2010年頃から頻繁にメディアにも取り上げられるようになってはきましたが、やっぱりまだ「いきなりストレッチをやめると怪我するらしい」という話があったり、そもそもこういう知見が広まっていなかったりして「ストレッチ信仰」は根強いわけです。

ストレッチから始まるレッスンや練習に慣れている人は、冷えきった身体でいきなり踊り出すのは怖いですよね。ではどうするか。より有効なものとして定着してきているのが、「ダイナミック・ストレッチング」。日本語で言えば「動的ストレッチ」ですね。

スポーツの試合や練習風景で映像で、ウォームアップ時に見かけたことがあるのでは? そもそもウォームアップというくらいですから、身体を動かして暖めることが重要というわけです。

では、静的ストレッチには意味がないのか、といえばそんなことはありません。

  • 激しい運動のために起こる筋肉の痛みを少しだけ(1%ほど)和らげる
  • 関節の可動範囲を維持し、拡げる

という効果があるということは各種調査で実証されています。

ということは、人によっては必ずしもストレッチをしなくても良い場合もある、ということになります。例え可動範囲が広くても、コントロールしきれないようでは踊りきれないということにもなりますね。

また、バレエやコンテンポラリーの世界では、自分で動かせる可動範囲を拡げることと、外部から力を加えて動かせる可動範囲、さらに静止状態を維持できる可動範囲などを分けて考えることで、パフォーマンス向上への効果を図ることもあるそうです。そういう考え方の中では、静的ストレッチやそれに代わる「何か」だけで目標が達成できるというわけではなく、複数の方法を組み合わせることで効果を高めていくことが必須になっているようです。

Cat_full_length

ということで、「ケガ予防やパフォーマンス向上を目的として、何をしたらよいのか」は続いて別記事で紹介します。ちなみに、冒頭でとりあげたマンガの『キャプテン』はかのイチロー選手も愛読者として知られておりますので、興味を持たれた方はトレーニング方法はさておき、ぜひご一読あれ。

[追記] 続編はこちら >> 「静的ストレッチがダメなら、ウォームアップに何をするの?」

ABOUTこの記事をかいた人

とにかくクラブで踊るのが好き!という自分の趣味をそのまま仕事にしたライター、編集者、コーダー。 ダンス雑誌『Dance Style』(リットーミュージック、現在は休刊)で編集やDVDシリーズ9本の監督を務める。音楽方面では渋谷のナイトクラブshibuyaNutsで広報・メディア制作を担当。